保釈中の被告が逃走したり、再犯に及んだりするケースが目立っている。背景には裁判所が保釈を広く認める傾向を強めていることがある。保釈制度はどうあるべきなのか。元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士と元裁判官の水野智幸法政大法科大学院教授に聞いた。(大竹直樹)
■高井康行氏 GPS装着で行動監視
--保釈中の被告が逃走、再犯に及ぶケースが後を絶たない
「宇都宮地裁が覚せい剤取締法違反罪で起訴された男の保釈を認め、身元引受人となった女性との逃走を許したケースはずさんだった。裁判所は弁護人に身元引受人との関係を説明させることもできるのだから、制限住居の指定や、被告と身元引受人との関係について、裁判官はもっとしっかり調べるべきだ」
--保釈制度に問題点は
「保釈制度はもともと被告は逃走しないという『性善説』で成り立っている。保釈保証金を納めさせ、保釈条件に違反した場合に没収することで逃亡を防ぐとの考えだが、今は保釈保証金を貸す業者もある。保釈金の抑止力が落ちており、制度を抜本的に見直す時期にきている」
--性犯罪の被告が保釈される一方、被害者が転居を余儀なくされるケースも起きている
「犯罪被害者の安心・安全に配慮しなければいけないが、保釈を広く認める流れは止められない。検察官がいくら裁判所の保釈決定に反対しても、今は裁判所が言うことを聞いてくれる時代ではない。問題は保釈した後だ。今までは保釈をしたら保釈しっぱなしだった。だから逃走や証拠隠滅の恐れがなくなる状況になるまで保釈が認められず、勾留が長期化してきた」
--どうすれば保釈後の逃走や再犯を防ぐことができるのか
「保釈後の被告の行動を監視する制度を整備し、保釈を早めるというのが正しい方向だろう。例えば被告にGPS(衛星利用測位システム)の発信機を装着させ、行動を監視する。一義的には検察の責任だが、警察に監視を認めても良い。GPSの受信機を犯罪被害者に持ってもらうことも可能だ。GPSの装着で保釈が認められるのなら反対する弁護人はいないだろう。同時に逃走中の再犯には法定刑の2倍の刑を科すなど厳罰化する。GPSと厳罰化は両輪で考えるべきだ。再犯の恐れがあるから保釈しないということよりはるかに良い。法務省が音頭を取って、すぐにでも有識者会議を開いて検討すべきだ」
--東京地裁が今年3月、殺人罪で懲役11年の実刑判決を受けた被告の保釈を認めた
「決定は東京高裁で覆ったものの、殺人罪で実刑判決を受けた被告の保釈なんてとんでもない。1審判決前なら公判前整理手続きで被告と弁護人が十分な協議をしなければならず、保釈の必要性も高いが、実刑判決により無罪推定の力も弱くなる。一方で逃走の恐れは増大している。1審実刑判決後の保釈も広く認めていくということはあってはいけない。裁判所は慎重に裁量権の行使をしてほしい」
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たかい・やすゆき 昭和22年、愛知県生まれ。早大卒。福岡地検刑事部長などを務め、東京地検特捜部時代はリクルート事件などを捜査。平成9年9月から現職。政府の有識者会議「裁判員制度・刑事検討会」委員も務めた。
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■水野智幸氏 脱「人質司法」の方法を
--平成21年の裁判員制度導入後、保釈を広く認める流れが進んだ
「裁判員制度の導入はきっかけにすぎない。早期保釈が必要な理由は、被告と弁護人の打ち合わせの機会を確保して公判前整理手続きの準備をするためだが、最高裁も26年と27年に、それまで保釈を容易に認めない要因となっていた『証拠隠滅の恐れ』を具体的に検討するよう促す決定を出した。逃亡や証拠隠滅の『抽象的な恐れ』で勾留してはいけないということだ。『疑いがあれば閉じ込めておけ』という日本の刑事司法は『中世的』といわれてきた。これまでが厳しすぎた」
--捜査現場からは、懸念の声も上がるが
「有罪とされた罪の刑罰は受けなければいけないが、そのほかの不利益は極力少なくする必要がある。愛媛県警が窃盗容疑で女子大学生を誤認逮捕した問題があったばかりだ。自白がなければ立証できないのなら立件は諦めるしかない。そうでなければ『人質司法』といわれても仕方がない。是が非でも自白を取るという発想は捨てるべきだ。司法取引を駆使したり、防犯カメラ映像などを活用したりして、人質司法ではない捜査のあり方を追求してほしい」
--保釈中の再犯も相次ぐ
「再犯防止は、保釈を認めない要件には入っていない。逃亡や証拠隠滅の恐れがなければ、裁判官の判断としては原則『保釈』となる。ただ裁判官が保釈請求された1件1件全てをしっかり調べるとなると、人手が足りない。それだけに裁判官の『人を見る目』が重要になってくる。裁判官も責任の重大さを認識しなければなならない」
--日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の早期保釈には「外圧に屈した」との批判も
「裁判所は外圧を契機に保釈の基準をグローバルスタンダードに近づけようという意図があったのではないかと思う。ゴーン被告に適用された基準は当然、日本人の被告にも同様に適用されなければならない」
--保釈中の再犯や逃走を防ぐ方策はあるか
「GPSの装着を条件に保釈を認めるのなら、歓迎する弁護人は多いはずだ。日本弁護士連合会も賛成するのではないか。勾留中の被告らが逃走した場合に問われる逃走罪は、保釈中の逃走には適用されないが、これを保釈中の逃走にも適用できるよう法改正しても良い。突然、身柄を拘束されることがいかに大変か。多くの人に知ってもらいたい。保釈を認める基準の緩和が進むことで適切な刑事司法のバランスが崩れるとは思わない」
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みずの・ともゆき 昭和37年、宮城県生まれ。東大卒。裁判官任官後、大阪地裁、東京地裁などで主に刑事裁判を担当。司法研修所刑事裁判教官なども務めた。平成24年3月に退官し、現職。28年10月から弁護士。
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【記者の目】適切な判断と法整備必要
容疑や起訴内容を否認すれば勾留が長期化することから「人質司法」と揶揄(やゆ)されてきた日本の刑事司法が大きな転換期を迎えている。裁判所が保釈請求を許可した割合(保釈率)は過去10年で倍増。近年は否認事件でも保釈が認められるようになっており、裁判所の姿勢の変化は明らかだ。
背景にあるのが裁判員制度。国民が参加する分かりやすい刑事裁判に向け、被告が弁護士と十分に相談できる環境がより重要視されるようになり、裁判官の間で勾留の必要性を慎重に判断する考えが広がった。
加えて、裁判所には国内外から強まる「人質司法」批判を回避したいとの思惑があるとみられる。
だが、保釈を広く認める流れの中では、逃走や再犯のリスクも高まる。裁判所の適切な保釈判断が求められるとともに、逃走や再犯を防ぐ法整備を急ぐ必要がある。(大竹直樹)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース